「叱り方」で部下との関係は決まる|27年間で学んだ感情を使わない指導術

現場の知恵(マインド・仕事術)

はじめに

「どうすれば上手く叱れるか」——これは、管理職になってから今もずっと向き合い続けているテーマです。

係長になりたての頃、私の「叱り方」は最悪でした。部下がミスをしたとき、感情的になって声を荒げることがありました。言い訳を聞く前に叱責することもありました。後になって「あんな言い方をしなければよかった」と後悔する日が何度もありました。

一方で「叱らない」ことへの戸惑いもありました。厳しく言わなければ伝わらない、甘くすれば舐められる——そういう思い込みが、長い間私の中にありました。

27年間の現場経験と、係長として多くの部下と向き合ってきた経験から、ようやく「上手な叱り方」の本質が見えてきました。この記事では、部下との関係を壊さずに問題を改善できる「感情を使わない指導術」をお伝えします。


「叱ること」と「怒ること」の決定的な違い

まず最初に、「叱ること」と「怒ること」の違いを整理します。この違いを理解することが、上手な指導術の出発点です。

怒ること:自分の感情(怒り・不満・苛立ち)を相手にぶつけること。目的は「自分の感情を発散すること」です。

叱ること:相手の行動や結果を改善するために、問題点を明確に伝えること。目的は「相手の成長と行動の改善」です。

多くの場合、「叱っているつもり」が実は「怒っている」だけになっています。感情が高ぶった状態での言葉は、相手に「内容」ではなく「感情」として届きます。怒鳴られた部下の頭に残るのは、叱られた内容ではなく「怖かった」という感情だけです。

係長になって5年目のころ、自分が「怒っている」だけだと気づかされる出来事がありました。厳しく叱ったつもりの部下に「何が悪かったかわかりましたか?」と聞いたとき、「はい…」という答えが返ってきただけで、翌週また同じミスを繰り返しました。「伝えた」と「伝わった」は全く違う——これを痛感した経験でした。


感情を使わない指導の5つのステップ

ステップ①:事実を確認する(叱る前の3分間)

叱る前に、まず「何が起きたか」を冷静に確認します。自分の思い込みや誤解で叱ってしまうことを防ぐためです。

「〇〇という状況だったと聞きましたが、どういう経緯でそうなったか教えてもらえますか?」と、穏やかに事実を確認します。

入社20年目のころ、部下が重要書類の提出を忘れたと思い叱ろうとしたところ、確認してみると私自身が「来週でいい」と伝えていたことが判明したことがありました。叱る前に確認することで、誤った叱責を防げます。

ステップ②:感情を落ち着かせる(6秒ルール)

問題が判明して怒りを感じたとき、すぐに叱り始めません。心の中で「1、2、3、4、5、6」と数えます。

怒りの感情は発生から約6秒でピークを迎え、その後落ち着いていきます。この6秒を使うだけで、感情的な言葉が出るのをかなり抑えられます。

時間が許せば「30分後に話しましょう」と伝えて、その間に自分の感情を整理することも有効です。

ステップ③:「行動」だけを指摘する(人格を否定しない)

叱るときは「行動や結果」についてのみ指摘します。「人格」を否定することは絶対にしません。

良くない例:「なんでこんなこともできないんだ」「お前はいつもこうだ」 良い例:「この書類の〇〇の部分に誤りがありました」「この件の報告が遅かったことで△△という問題が生じました」

人格を否定された部下は、萎縮するか反発するかのどちらかです。行動を指摘された部下は、「次はこうすればいい」という改善の方向が見えます。

私のルールは「叱るときは『あなたは』ではなく『この件は』で始める」ことです。主語を「あなた」から「この件(行動)」に変えるだけで、叱り方が大きく変わります。

ステップ④:「なぜ問題なのか」を丁寧に説明する

何が問題だったかを指摘した後、「なぜそれが問題なのか」を説明します。

「報告が遅かった」という事実の指摘だけでは、部下は「次は早く報告しなければ」と思うだけです。しかし「報告が遅れたことで、取引先への対応が遅れ、〇〇という問題が生じました。早期報告があれば防げたミスです」と伝えることで、部下は「なぜ報告が大切なのか」を理解します。

理由がわかると、同じ状況が起きたときに自分で判断できるようになります。「なぜ」を伝えることが、再発防止の最も効果的な方法です。

ステップ⑤:「次はどうするか」を一緒に考える

叱った後、「次はどうすれば同じミスを防げるか」を部下と一緒に考えます。

「次は気をつけます」という答えで終わらせないことが重要です。「具体的にどう気をつけるか」を言葉にさせることで、再発防止の具体的な行動が生まれます。

「今後はどんな対策をしようと思いますか?」と問いかけ、部下が自分で考えた対策を言葉にする。上司が答えを与えるのではなく、部下に考えさせることで、「自分で決めた対策」として実行しやすくなります。


場所と状況の選び方

叱る際の「場所と状況の選び方」も重要です。

人前で叱らない

他の社員がいる場所で叱ることは避けます。人前で叱られた部下は、内容より「恥ずかしかった」という感情が残り、上司への不信感につながります。

どうしてもその場で指摘が必要な場合は「後で少し話しましょう」と伝え、場所を変えてから叱ります。

タイミングを選ぶ

ミスが起きてすぐに叱ることが効果的な場合と、少し時間を置いた方が良い場合があります。

緊急性の高い問題(同じミスが続いている・重大な影響が出ている)はその日中に対処します。一方、感情が高ぶっている状態では翌日以降に話す方が、冷静な指導ができます。


「叱った後」のフォローが関係を決める

叱った後のフォローが、部下との関係に大きな影響を与えます。

叱った翌日は普通に接する

叱った翌日、「昨日は厳しいことを言ったが」という特別な態度は必要ありません。普通に「おはよう」と声をかけ、通常通りに接します。

叱った後に気まずい雰囲気を長引かせることは、部下にとっても上司にとってもストレスです。「昨日のことは昨日、今日は今日」という姿勢が、関係の修復を早めます。

改善が見られたら必ず認める

叱られたことへの改善行動が見られたとき、必ずそれを認めて言葉にします。「先週の件を踏まえて、今回はすぐに報告してくれましたね。それが正しい対応です」という一言が、部下の自信と信頼感を育てます。

叱るだけで認めることをしない上司のもとでは、部下はいつまでも萎縮し続けます。叱ることと認めることがセットになって、初めて有効な指導になります。


まとめ

感情を使わない指導術をまとめます。

叱ることと怒ることの違い

  • 怒ること:自分の感情を発散すること
  • 叱ること:相手の行動改善を目的とした指摘

感情を使わない指導の5つのステップ

  • 事実を確認する(叱る前に3分間、何が起きたかを確認)
  • 感情を落ち着かせる(6秒ルール・30分後ルール)
  • 「行動」だけを指摘する(人格否定は絶対にしない)
  • 「なぜ問題なのか」を丁寧に説明する(理由がわかると再発防止になる)
  • 「次はどうするか」を一緒に考える(部下に自分で考えさせる)

場所と状況の選び方

  • 人前で叱らない(場所を変えてから話す)
  • タイミングを選ぶ(緊急性に応じて対応を変える)

叱った後のフォロー

  • 翌日は普通に接する(気まずい雰囲気を長引かせない)
  • 改善が見られたら必ず認める(叱ることと認めることはセット)

「叱り方」は、部下との関係を決める重要なスキルです。感情ではなく、事実と理由と改善策を伝えることで、部下は成長し、信頼関係は深まります。27年間の試行錯誤から辿り着いた、これが私の答えです。

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