「聞く力」が仕事を変える|飲みの席で部下の本音を聞いた夜と、27年間で学んだヒアリングの現実

現場の知恵(マインド・仕事術)

素面では話せない人がいる、という現実

「聞く力が大切だ」とよく言われる。私もそう思う。でもひとつ、教科書には書いていないことを先に伝えておきたい。

素面ではどうしても本音が出ない人が、職場には必ずいる。

27年間、部下と向き合ってきて気づいたことだ。どれだけ丁寧に聞いても、どれだけ話しやすい雰囲気を作っても、職場という場では本音を出せない人がいる。それは弱さではなく、その人の性格や、職場という環境が持つ特性だと思っている。

だから私は、アフターの飲みの席を使うことがあった。


飲みの席で聞いた、部下の本音

ある夜、部下と二人で飲んだ。

仕事の話から始まって、だんだんと打ち解けてきた頃、その部下がぽつりと言った。「入社してからずっと、悔しい思いをしてきました」と。

その言葉を聞いた瞬間、胸に刺さるものがあった。

私も同じだったからだ。高卒で入社して、大卒の同僚との給与差を最初の明細で突きつけられた日。大卒の後輩に昇進で抜かれていくのを横目で見た年月。「悔しい」という感情を、友人にしか吐き出せなかった日々。

部下が抱えていたものは、27年前の私が抱えていたものとほとんど同じだった。

職場で一対一で面談していたとき、この部下はそんな本音を一度も出さなかった。「特に問題ありません」「大丈夫です」という答えが続いていた。でも飲みの席で、ようやく本音が出た。

その夜以来、この部下との関係は変わった。私も自分の経験を少し話した。「実は自分も同じだった」と。それだけで、職場での会話が変わった。相談してくれるようになった。


「聞く場所」を選ぶことも、聞く力のひとつ

この経験から学んだのは、「聞く力」とは技術だけではなく、場所と状況を選ぶことも含むということだ。

会議室での面談、職場での立ち話、飲みの席——同じ人間でも、場所によって話せることが全然違う。緊張した環境では出てこない言葉が、リラックスした場では自然と出てくることがある。

もちろん、飲みを強制することは今の時代にそぐわない。あくまで「行きたい人と、自然な流れで」が大前提だ。でも、職場以外の場で部下と話す機会を持つことの価値は、27年間の経験から確信している。


職場で「聞く力」を発揮するために

飲みの席だけが本音を引き出す場ではない。日頃の職場での聞き方でも、できることはたくさんある。

27年間で実際に効いたと感じていることを書く。

話の途中で遮らないこと。 相手が話しているとき、「あ、それはこういうことだな」と先読みして口を挟みたくなる。でもそれをやると、相手は「最後まで聞いてもらえなかった」と感じる。どんなに予想がついても、最後まで聞き切ることが基本だ。

「どうしてそう感じたの?」と聞くこと。 事実だけでなく、感情に触れる質問をする。「何があったか」より「どう感じたか」を聞くことで、相手の内側にあるものが出やすくなる。

沈黙を埋めようとしないこと。 相手が考えているときの沈黙を、こちらから埋めてしまうと、相手の言葉が出てくる前に流れが変わってしまう。少し待つだけで、重要なことが出てくることがある。

「他に何かある?」と最後に聞くこと。 話し終わった後に、「他に気になっていることはある?」と一言添える。この一言で、言いそびれていた本音が出てくることが少なくない。


「聞けなかった」という後悔もある

聞く力を大切にしてきたと書いたが、それで全てうまくいったわけではない。

以前、部下が同僚から陰で辛辣なことを言われていたにもかかわらず、私は気づけなかった。面談でも、普段の会話でも、その部下は「大丈夫です」と言い続けていた。飲みに誘うこともできていなかった。

気づいたときには、その部下は体調を崩して休職していた。

「ちゃんと聞いていたつもり」が、実は聞けていなかった。あの経験は今でも後悔している。

聞く力というのは、技術を磨けば完璧になるものではない。相手が話せる状況にあるかどうか、話したいと思えるかどうか——それは相手の内側にあるものだ。こちらができるのは、話しやすい環境を作り続けることだけだ。それでも届かないことがある。


「悔しい」を共有できる関係になること

飲みの席で部下の本音を聞いたあの夜、私は自分の経験を少し話した。

高卒で入社して感じた給与格差のこと。大卒の後輩に抜かれていく悔しさのこと。それでも27年間続けてきたこと。

部下は黙って聞いていた。その後、「そうだったんですね」と言って、少し表情が和らいだように見えた。

上司が完璧でなくていい。悔しさや失敗を経験してきた人間だとわかることが、かえって部下の心を開くことがある。聞く力というのは、技術だけでなく、自分の経験を正直に話せるかどうかにも関わっているのかもしれない、と今は思っている。


まとめ:聞く力は「場所」と「正直さ」で変わる

27年間で学んだ「聞く力」の本質を一言でまとめるなら:

「聞く技術」より先に、「話してもらえる関係」を作ること。

素面では話せない人がいる。職場という場では出てこない本音がある。それを知った上で、飲みの席でも、普段の一言でも、相手が話せる状況を作り続けること。

そして時には、自分の弱さや悔しさを正直に話すこと。それが、相手の本音を引き出す一番の近道だったりする。

教科書には書いていない話かもしれないが、これが27年間の現場で学んだ、聞く力の現実だ。


このブログでは、高卒・係長として27年間働いてきたリアルな経験をもとに、仕事やキャリアについて正直に書いています。格好いい話ばかりではなく、失敗や葛藤も含めて。

タイトルとURLをコピーしました