事務職として27年、椅子に座って戦い続けていると、ある一つの真理に辿り着きます。 それは、仕事の8割は「コミュニケーション」で決まるという事実です。
どれだけ正確な書類を作れても、どれだけ高度な関数を駆使できても、周囲との意思疎通がうまくいかなければ、その仕事は半分も評価されません。逆に、周囲との信頼関係が盤石であれば、不測の事態でもカバーし合え、何より自分自身の精神的な負担が劇的に軽くなります。
2023年にも同じテーマで記事を書きましたが、今の視点で見つめ直すと、当時よりもさらに深く「実務に即したコミュニケーション」の重要性を感じています。今日は、事務所という閉鎖空間で自分のペースを守りながら、仕事を円滑に回すための「生存戦略」についてお話しします。
「聴く」ことは、相手の要求を正確に検品する実務作業である
コミュニケーションの基本は「聴く力」だと言われますが、ビジネス、特に事務職における「聴く」とは、単に相手の話を黙って受け止めることではありません。それは、相手が発した言葉の裏にある**「真の要求」を正確に検品する作業**です。
事務所には日々、多種多様な依頼が飛び込んできます。中には要領を得ない説明や、感情的な要望も含まれるでしょう。その際、私はまず手を止め、相手の目を見ることから始めます。
特に忙しい時ほど、キーボードを叩きながら返事をしてしまいがちですが、これは「あなたの話の優先順位は私の作業より低い」と無言で宣言しているようなものです。これでは相手に不信感を与え、結局は後で説明不足による手戻り(リテイク)を生む原因になります。
相手の表情や身振り(ボディランゲージ)を観察してください。 言葉では「急ぎません」と言っていても、指先が落ち着かなかったり、何度も時計を気にしていたりする場合、実は相当な焦りや不安を抱えていることが多いものです。その微かなサインを読み取り、「実はかなりお急ぎですよね? 今すぐ対応しましょうか」と一歩踏み込む。この「深い理解」こそが、事務職としての圧倒的な信頼感を作り出します。
「たぶん」を捨てて言い切る勇気が、周囲の不安を解消する
事務職のリーダーとして最も避けたいのは、相手を不安にさせる「曖昧な返答」です。 自分に自信がない若手の頃は、つい「たぶん……」「……だと思います」といった言葉を使いがちになります。しかし、情報のハブ(中継地点)である事務職が曖昧な発言をすると、そこから連鎖的に組織全体のミスや混乱が広がっていきます。
たとえその場で100%の確証がなくても、**「現時点ではこうです。詳細は10分後に確認して正式に報告します」**と、今わかっている事実を言い切ることが大切です。
言い切るためには、日頃から自分自身の知識を磨き、根拠となる数字やルールを把握しておく必要があります。自分の言葉に責任を持ち、言い切る。その覚悟が見えるリーダーにこそ、人は安心して難易度の高い仕事を任せられるようになるのです。
エンパシーとは、相手の「次の工数」を想像する優しさ
最近よく耳にする「エンパシー(共感力)」という言葉。 私はこれを事務職の文脈では、**「相手がこの後、どれだけの工数(手間)をかけることになるかを想像する力」**だと定義しています。
例えば、上司から資料作成を頼まれたとき。 相手がその資料を「会議で配るだけ」なのか、それとも「さらに自分で加工して経営層に報告する」のかを考えます。もし後者であれば、加工しやすいようにExcelのデータ形式を整え、集計ミスが起きにくい関数を組んで渡す。これが、相手の立場に立つということです。
相手が何を求め、何に困っているのかを先回りして考える。 事務職は、相手の時間を奪うこともできれば、相手の時間を生み出すこともできる仕事です。エンパシーを持って接することで、相手は「この人は自分のことを分かってくれている」と感じ、そこに強固な信頼関係が築かれます。
ボディランゲージを味方につけ、事務所の空気をコントロールする
コミュニケーションは、言葉だけで行われるものではありません。特に静かな事務所では、非言語の情報が雄弁に語ります。
相手の目を見て話すことは基本ですが、そこに「適切なうなずき」を加えるだけで、相手の自己肯定感は高まり、本音を引き出しやすくなります。また、自分の姿勢も重要です。背筋を伸ばし、落ち着いた態度で座っているだけで、周囲には「あの人は余裕がある」という安心感が伝播します。
逆に、ため息をついたり、乱暴に受話器を置いたりする行為は、瞬時に事務所の空気を凍りつかせ、チームのパフォーマンスを下げてしまいます。リーダーは、自分のボディランゲージが周囲にどのような影響を与えているかを常に客観視しなければなりません。
まとめ:仲間を増やすことは、最大の業務効率化である
以上、私が大切にしているコミュニケーションの要点をお話ししました。 これらは単に性格を良くするための方法ではなく、仕事をスムーズに、そして自分自身が楽に進めるための「高度な事務スキル」です。
コミュニケーション能力を高め、事務所内に「味方」を増やすこと。 それは、一人では抱えきれないタスクを自然に手伝ってもらえたり、分からないことを気軽に教え合えたりする環境を作ることと同義です。結果として、自分自身の仕事のスピードは飛躍的に向上し、ストレスは激減します。
かつての私がそうだったように、もし今あなたが人間関係に悩んでいるなら、まずは今日、誰かの話を「目を見て聴く」ことから始めてみてください。その小さな積み重ねが、やがてあなたの27年後の誇りへと繋がっていくはずです。

