はじめに
「出世したくない」——近年、このような考え方を持つ若い社員が増えていると聞きます。責任が増える、残業が増える、人間関係が複雑になる。それに見合うだけの給与増加がない。だから出世を望まない、という論理です。
正直に言えば、私もかつてそう思っていた時期がありました。係長になる前、「管理職になったら今より楽しくなくなるのではないか」という漠然とした不安がありました。現場の仕事が好きだった私にとって、「管理職=現場から離れる」というイメージが、昇進への抵抗感につながっていたのです。
しかし、係長になって10年以上が経った今、「あのとき昇進してよかった」と心から思っています。その理由は、給料でも肩書きでもありませんでした。
この記事では、高卒・叩き上げの私が係長という立場になってから感じた「本当の意味での良さ」を、率直にお伝えします。出世を迷っている方や、管理職という立場に不安を感じている方に届けば幸いです。
係長になる前に感じていた不安
昇進の打診を受けたとき、私は正直迷いました。
当時の私が感じていた不安は、大きく3つでした。
不安①:責任が増えてプレッシャーに潰されるのではないか 係長になれば、チームの成果に対して責任を負います。自分一人の仕事であれば自分が頑張ればいいですが、チームの成果となると、コントロールできない部分が増えます。その重さに耐えられるかどうか、自信がありませんでした。
不安②:部下に慕われる自信がない 人をまとめたり、育てたりする経験がほとんどなかった私には、「部下から信頼される上司になれるか」という不安がありました。特に自分より年上のベテランパート社員をまとめることへの緊張感は、相当なものでした。
不安③:給与増加に見合わない働き方になるのでは 係長になると残業代がつかなくなります。その代わりに管理職手当がつきますが、残業が多くなれば実質的に時間単価が下がる可能性もあります。「損をするのではないか」という打算的な不安も、正直ありました。
係長になってよかったと思う理由
これらの不安を抱えながらも昇進を受け入れ、実際に10年以上経験した今、感じていることをお伝えします。
理由①:「仕事の全体像」が見えるようになった
係長になって最初に感じた変化は、仕事の見え方が変わったことです。
担当者として働いていた頃は、自分の担当業務の「点」しか見えていませんでした。しかし管理職になると、部門全体の「線」や「面」が見えるようになります。「あの部署の動きがこちらに影響している」「このプロセスがボトルネックになっている」——こうした全体の流れが見えることで、仕事の面白さが格段に増しました。
私が27年間で最も仕事が面白いと感じているのは、実は係長になってからです。現場の担当者時代には見えなかった景色が広がったことが、その最大の理由です。
理由②:「人の成長を見る喜び」を知った
係長になって気づいた、担当者時代にはなかった喜びがあります。それは「部下の成長を見る喜び」です。
入社1年目の部下が、3年後に一人前として活躍しているのを見たとき、「自分の仕事が人の成長につながった」という充実感は、何物にも代えられません。これは管理職にならなければ、絶対に経験できない感情です。
特に印象に残っているのは、入社当初は報告が苦手で自信のなかった若い部下が、3年後に新人の指導役を任されるまでに成長した瞬間です。その場面を見たとき、自然と目頭が熱くなりました。
自分の仕事の成果が「数字」ではなく「人」という形で残る——これが管理職の仕事の最大の醍醐味だと今は思っています。
理由③:「高卒」という壁が薄くなった
これは予想していなかった変化でした。
担当者として働いていた頃、「高卒だから」という見えない壁を感じることが少なからずありました。会議での発言力、評価される際の基準——そこに学歴が影響していると感じる場面がありました。
しかし係長という肩書きを持つと、相手が見ているのは「係長のしん」になります。学歴ではなく、役割と実績で判断される場面が増えました。「高卒だから」と感じる機会が、明らかに減ったのです。
肩書きは、社会での信用を一定程度補完してくれる——この現実を、管理職になって初めて実感しました。
理由④:「自分のやり方」で仕事ができる範囲が広がった
担当者時代は、決められたやり方で仕事をすることがほとんどでした。しかし係長になると、「このプロセスをこう変えよう」「このルールは見直した方がいい」という提案が通りやすくなります。
自分のチームの仕事の進め方を少しずつ改善していく過程は、非常にやりがいがありました。「自分の思う良い仕事の仕方を実現できる」という自由度の広がりが、管理職になってよかったと思う大きな理由のひとつです。
「出世したくない」という気持ちの本当の正体
近年増えている「出世したくない」という気持ちは、実は「今の職場環境での出世が嫌だ」という意味であることが多いように感じます。
理不尽な上司のもとで理不尽な管理職を見てきた人が「ああはなりたくない」と思うのは、自然なことです。責任だけ重くて、権限も報酬も伴わない管理職を見ていれば、魅力を感じないのも当然です。
しかし「管理職そのもの」が魅力のないものなのかというと、そうではないと私は思っています。適切な権限と、信頼できるチームがあれば、管理職という立場は非常に豊かな仕事経験をもたらしてくれます。
「出世したくない」と感じている方は、一度「なぜそう思うのか」を掘り下げてみることをお勧めします。その不安が解消されたとき、管理職という選択が新しい可能性として見えてくるかもしれません。
まとめ
高卒・叩き上げの私が係長になってよかったと思う理由を整理します。
- 仕事の全体像が見えるようになった:点から線・面へ。見える景色が変わると仕事の面白さが増す
- 人の成長を見る喜びを知った:自分の仕事が「人」という形で残る管理職ならではの醍醐味
- 「高卒」という壁が薄くなった:学歴ではなく役割と実績で見られる機会が増えた
- 自分のやり方で仕事できる範囲が広がった:改善提案が通りやすくなり、理想の仕事の進め方を実現できる
出世することがゴールではありません。しかし、管理職という立場が持つ可能性を、食わず嫌いで遠ざけるのはもったいないと思っています。27年間の現場経験から、それをお伝えしたかった記事でした。
