「これ、意味あります?」という反発にどう答えるか。現場の士気を下げずに「無駄な作業」を完遂させる技術

現場の知恵(マインド・仕事術)

現場を襲う「納得感ゼロ」の指示

新しい年度の始まりや、組織の改編期。現場のリーダーである私たちの元には、しばしば「机上の空論」としか思えない指示が降ってきます。

現場の実態を1ミリも知らない上層部や、数値管理にしか興味がない部署が作成した「新しい報告フォーマット」や「煩雑な二重チェックのルール」。それらがメール一本で届くたびに、私は現場の連中の顔を思い浮かべて、暗澹(あんたん)たる気持ちになります。

案の定、朝礼でその指示を伝えた瞬間、現場の空気が凍りつきます。

「しんさん、これ本気でやるんですか?」 「ただでさえ忙しいのに、こんな無駄な作業を増やす意味が分かりません」

部下たちの言葉は、正論です。私自身、心のどこかで「これは無駄だ」と確信しているからです。しかし、係長という立場は、その「無駄」を現場に飲ませ、実行させなければならない役割も担っています。ここで「上が決めたことだから黙ってやれ」と言うのは簡単ですが、それを口にした瞬間、27年かけて築いてきた現場との信頼関係は音を立てて崩れることを、私は知っていました。

正論は火に油を注ぐだけ

かつて、私にも「正論」で押し通そうとした時代がありました。 「会社の方針だ」「これが組織のルールだ」と。しかし、現場で泥にまみれて働く人間にとって、そんな言葉は空虚な響きでしかありません。

部下たちが欲しているのは、組織の論理ではありません。**「自分たちが日々向き合っている苦労や、限られた時間の中で必死に回している現場のリアルを、このリーダーは分かってくれているのか?」**という、たった一つの確信です。

「上が言っているから」という言葉は、リーダーとしての思考放棄であり、現場への裏切りです。その言葉を使った瞬間、部下は「この人は俺たちの味方じゃない。ただの会社のスピーカーだ」と判断します。一度そう思われてしまえば、指示は表面上だけ通るようになり、見えないところで手抜きやミスが多発する……そんな最悪の「負の連鎖」が始まるのです。

「翻訳術」:あえて「無駄」を共有する

私は、納得のいかない指示を伝える際、あえて部下と同じ土俵に立つことから始めます。

「正直に言う。俺もこれ、無駄だと思うよ。手間だけ増えて、現場には何のメリットもないよな」

まず、彼らの感情を100%肯定する。ここで嘘をついて、無理に「この作業には価値がある」と着飾っても、現場のプロたちの目は誤魔化せません。

その上で、私は会社の論理を「現場を守るための論理」に翻訳して伝えます。

「ただ、今回この無駄な報告書をきっちり出すことで、上に『現場はルールを完璧に守っている』という事実を突きつけられる。そうすれば、次に俺たちが本当に通したい要望……例えば老朽化した設備の更新とか、人員の増強とかを交渉する時の強いカードになるんだ。ここは一つ、俺の顔を立てて、将来の現場を守るための『投資』だと思って、力を貸してくれないか

指示を「命令」ではなく、現場の未来を守るための「戦略的な譲歩」として再定義する。これが、私が27年かけて身につけた「現場の翻訳術」です。

「分からせる時間」を惜しまない

「そんな説明をしている時間はない。早く作業をさせろ」 そう思うリーダーもいるかもしれません。しかし、急がば回れ、です。

人間は、納得していない作業をさせられる時、パフォーマンスが著しく低下します。嫌々書いた報告書には間違いが混じり、形だけのチェックは重大な事故を見逃します。結局、その手直しやフォローに、説明に要した時間の何倍ものコストを支払うことになるのです。

作業の手を止め、タバコ休憩の一時や、昼休み前の数十分を使って、腹を割って話す。

「分からせる」のではなく「分かち合う」。 その時間は一見、非効率に見えますが、結果として現場の士気を維持し、作業を最短ルートで完遂させるための「最速の手段」となります。

「しんさんがそこまで言うなら、やりましょう」

その一言を引き出せるかどうかが、リーダーとしての勝負どころです。

最後に:板挟みで悩むあなたへ

上層部からの理不尽な指示と、現場からのリアルな反発。 その板挟みになって、胃が焼けるような思いをしているリーダーは、あなただけではありません。

私たちは、組織という大きな歯車を回すための、潤滑油のような存在です。時に泥を被り、時に「大人」になって無駄を飲み込む。それは決して「負け」ではありません。

泥臭い調整を行い、現場の連中が納得して動ける環境を整える。それこそが、教科書を読んだだけの大卒エリートには決して真似できない、現場叩き上げのリーダーだけに許された「最高のプロフェッショナルな仕事」なのです。

会社という大きな看板に隠れるのではなく、自分の言葉で、自分の背中で、現場の連中を納得させる。その積み重ねが、いつかあなた自身の「揺るぎない価値」として証明される日が、必ず来ます。

今日もまた、理不尽な指示が届くかもしれません。 でも大丈夫です。あなたは一人じゃない。現場の意地を、共に貫き通しましょう。

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